編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏 / ロゴ:配野美矢子
NO.318 2014.10.22  掲載 

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  筆者:アルメル・マンジュノ
さん
   
  フランス人(女性)・港北区日吉本町在住
  

     日本人の金銭感覚
         

  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載“復刻版”


   掲載記事:平成4年4月20日発行本誌No.56 号名「椒
(さんしょう)
   


 
もうすぐ春……早く4月になりますように。3月は私が日本で一番恐れている月だからです。なぜって、お天気が安定しないでしょう。暖かな日があるかと思えば、冬将軍が舞い戻ったり……。こんなに人を裏切る月はありません。そのうえ、3月は財布が空っぽになる月です。このほうがもっと恐ろしい! 税金、入学祝……。

 おっと、これは失礼! こちらでは、お金の話をするのは余り品のいいことではありませんでしたね。

 でも、やはり暮らしの重要な部分を占めることですから、女性としても外国人としても、日本のお金事情には興味を持ちます。




  最近日本人は“拝金教”の信者になった(?)


  先日アテレコをしたビデオでは、日本人ビジネスマンが値段を口では言わず、電卓で示す場面があり、「日本では伝続的にお金のことを口にするのは避ける」と、フランス語のコメントがついていました。

  実際、日本では金銭に関することは心の中に収めておこうとする習慣があるのを、日常生活の中で多々感じさせられます。
 長い間に私も影響され、フランスで母が店員に「まあ、高い!」なんて言うのを聞くと、ちょっと気詰りです。また、アフリカやインドネシアで買物をするとき、値切ることができず、一緒に行ったフランス人の友達に笑われてしまいました。

 日本では、他の国よりお金がタブー視されているわけですが、それにしては、あちこちに金額が特筆大書してあると思いませんか。日本人は気にも留めてないようですが、電車の中吊広告や新聞にはとてつもない金額が書き連ねてあり、びっくりさせられます。○億円契約更改一発サイン、豪華○億円挙式、泥沼の○億円離婚、○億円の不正献金(最近の政界の腐敗には想像を絶するものがあります)。この他、企業が海外のビルやお城を○億ドルで買収したとか、有名私立校へ入学させると親の負担は○千万円とか、挙げていったらキリがありません。

 日本人は無神論者だとよくいわれますが、これでは拝金教に入信したとしか思えません。私の見方は短絡的すぎるでしょうか。こうした風潮に批判的な方がたくさんいてくだされば、私も安心です。

 ただ、この現状を見て育つ若者が、勉強も、結婚も、尊敬や賞賛を得るのも、政治を志すのも、すべて金、お金がなくてもお金があるように見栄をはらなくちゃならない、なんて思い込みはしないかと心配です。

  そのうえ、世界中どこでも同じと思い込むことになったら、はっきり言って、困ります。だって、本当は違うのですから!



 昨年秋、陶芸好きのアルメルさんが“陶芸の里・笠間”を訪ねたとき。最近のアルメルさんから皆様へ、ひと言。「日本人はあちらでブランド物ばかりに目を奪われないで、ヨ一口ッパの伝統の価値に興味を持ってほしい。そして、もっと真面日にヨ一ロッパ文化を見学してほしいですね」



    前近代的な日本式家計運営


 
私はフランス人が恋やロマンばかりを考えて、金のことなど構わない国民とは言いたくはありません。

  たとえば、失業してもあっけらかんとしているような人はいないと思います。職がないと、社会的存在としてなかなか認知されないからです。男女を問わず、お金を稼いで家に持ってくるのは大切なことですよ、もちろん。

 先日、あるパーティーで「どうしてそんなに働くのか」と訊かれましたが、私の答えはこうです。

  まず第一に、勉強したのを収益化するためです。ただ家事をして過ごすだけなら何年も大学へ通った意味がありません。
  第二に、正直言って、お金を稼ぐためです。どうして主人一人が生活費を稼ぐためにクタクタにならないといけないの? そんなの不公平です。
 在日欧米人の友人で小さな子供がいない人はみんな、夫の職が何であれ、家計を平等に負担しようと何かしら仕事をしています。日本人の友人でも、とくに気の合う人は、たとえ週一度にしろ、働いているのです。お互い、お金を稼ぐ苦労を知っているからでしょうか。それに、女性に少しでも収入があれば、夫婦喧嘩のたびに「僕が食わせてやってんだから、ガタガタ言うな」なんて酷(ひど)い言葉を夫から浴びせられなくて済みますよね……。

 とにかく、今のような調子で教育費や住宅費が増え続けると、もうじき日本では、夫一人の稼ぎで家計を賄えなくなるのではないでしょうか。また、生活費は夫が稼ぐものと思っている女性も、少し将来のことを考えてみたほうが良いのではないでしょうか。

 こんなことを言うのも、実はわずかこの一年の間に、夫を過労死で亡くした日本人の知り合いが
人もいるからなんです。いくらかの補償は会社から出るでしょうが、彼女たちはこれから女手一つで暮らしを立てなければなりません。だから、私は仕事の世界との接触を絶対に絶ってはならないし、何か一つ手に職をつけておいたほうが良いと思うのです。

そういえば、面白いことがあります。欧米人が日本女性の地位はまだ低いと言うと、決まって日本人は、「彼女たちも重要な役目を担っている。一家の大蔵大臣″だ」と答えます。確かに家計を一人でやりくりし、それを自分の仕事≠ニ心得ている主婦は日本ではとても多いようです。

 でも、正直言って、この話には首をかしげたくなります。面倒臭いから妻にやらせているだけではないでしょうか。金銭のことに、いちいちタッチしていると余計な気を遣うから嫌だ、といったあたりが日本男性の本音のような気がします。一方、妻の側の、一家の財布は自分の手に握っておきたいという気持ちも分かります。甘やかされて育つ場合が多い日本人の夫に渡したが最後、財布の紐はゆるみっぱなしなんてことになるかも知れません。とくに若いうちは危険ですね!

 
 ともかく、日本式の家計運営はどうも近代的とは思えません。さらに言わせてもらえば、家庭で経済的実権のない男性には、全然セックスアピールを感じていません、私は。すべて関連があると思いますが・・・…。




    日本人の買い物感覚、これでいいの?


 

 お金に関しては、まだたくさん言いたいことがあります。買物に出かけると、あちこちで無駄遣いの甘い誘惑に出合いますが、そんな中で目にする輸入品の価格は、日本人の節度感覚が麻痺しているのではと思えるほど高いのでびっくりします。洋服はいくら欲しくても、バーゲンの時だけ、と前から決めていますけれど、自由が丘あたりの店に入ってしまうと、何をするか分かりません。

 いま日本が世界一の債権国になったのは周知の事実です。ただ率直に言って、そのことで他国から尊敬されるとは思えません。

 私が今も魅せられているのは、日本の豊かな文化や芸術家の優れた技(わざ)であって、経済力ではありません。それなのに、いま日本にお金万能主義が蔓延し始めたのは残念です。


 一方、お金持ちになった日本人のお金の使い方はなんか変です。ヨーロッパの名画を金にあかして買い漁るのはまだ分かります。絵画鑑賞は高尚な趣味と言えますから。だけど、ポルシェのオープンカーで空気の汚れた渋滞の東京をコートダジュールかリビエラ気分で走りたがり、それが他人の羨望の的になりたいがためだなんて、ちょっと可笑(おか)しくありませんか。私も高級スポーツカーに目がないほうですから、所有したい気持ちも分かりますが、乗るには乗るだけのものがなければなりません。でも、それはお金では買えないのです……。


 ああ、また今回も大分キビしいことを言ってしまったようです。きっと、「この外人は偉そうなことばかり言って、本当は日本のことを何も分かっていない」と思う方も多いでしょう。 実際は、こんなことを言うのも、日本が好きだからです。フランスには《愛すればこそ鞭》という諺があります。

                      イラスト:石野英夫(元住吉)

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