編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏 
NO.856 2016.01.18  掲載


 この道一筋  沿線の生業-
 

      沿線でただ一軒の桶屋さん

  神奈川区平川町

竹内風呂桶店 竹内正治さん(66歳)



「竹内さん、わたしも木の桶を使える身分になりたいよ」

  東白楽駅前の上麻生通りを渡り、平川町通りに出る通りをまっすぐ行くとその通りに出る角に竹内風呂桶店がある。
 店内には製造途中のお鉢や桶、飯台などが並んでいる。昔はよく見かけた情景だろうが、今は滅多に見られない。

 ここ平川町通りは、かつての八王子街道。道沿いにある提灯屋さん・表具屋さん・畳屋さんなどが、今も営業、かすかに往時をしのばせる。

 2代目の竹内さんがここでこの仕事を始めて44年。10坪ほどの板の間の仕事場にはノミやカンナなど道具類が所狭しと並び、きょうも一心に桶づくり。あたり一面に木の香りが漂っている。

 「たまたま今じゃあ、珍しい職業になつてしまっただけだよ。これも、オレ一代で終わりだよ」。節くれだった手を休め、ご主人はそう言った。

 最近住宅事情が変わり、木の風呂桶は滅多に注文がない。で、今の商売の中心は、プラスチック・ステンレス製風呂桶の販売と修理だが、竹内さんがいちばん生きがいを感じるときは「木の感触を忘れられない人に出会ったとき」とキッパリ言った。

 椹(さわら)の風呂桶でひと浴び、明日の鋭気を養うのは今時、とっても贅沢なのだ。
        (武蔵小杉・大谷敬子)


                     ★平成2年1月発行『とうよこ沿線』第49号から転載


 東白楽駅近くに3代続く牧場。乳牛13頭も


 

 神奈川区鳥越
   乾牧場 乾(いぬい)芳文さん(52歳)



このモウちゃん畳を食べているのです。畳が、やがて牛乳になる?!

 駅のすぐ近くに牧場が……と聞いたとき、「ウッソー」。年甲斐もなく叫んでしまった。場所が場所だけに信じられなかったのだ。





 

 東白楽駅から南へ徒歩5分ほど、孝道山の鐘楼の真下あたり、すく近くに第二京浜国道が走っている。住宅やアパートが密集する空地に仔牛が、突然「モー」……。もう、驚いたなあ。牛小屋はその向かい側にあった。

 飼い主は乾 芳文さん(52)。すでに3代続くれっきとした牧場である。敷地は約300坪。牛舎には仔牛も含め13頭もいるのだ。それでも現在、神奈川区内には4軒の農家が牛を飼っているそうだが、もちろん、この辺には一軒もない。

 餌のワラの入手に困るだろうと思ったら、主人が一生懸命にワラを刻んでいる。畳屋さんから出る古タタミを分解して、餌にしているのだ。
 この大都会で、酪農の一番の悩みはフンの処分。「いまは、保土ヶ谷の農家が引き取りに来てくれるので助かりますが…。やがてそれも都市化が進むと無理。もう後継者もいないし、私の代でおしまいでしょうねえ」。
  乾さんはこう言って、牛舎の中に消えていった。            (文 岩田忠利)

                          ★平成2年1月発行『とうよこ沿線』第49号から転載
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