編集:岩田忠利 / 編集支援:阿部匡宏 / ロゴ:配野美矢子
NO.288 2014.10.12  掲載 

        画像はクリックし拡大してご覧ください。


  筆者:アルメル・マンジュノ
 さん

  フランス人(女性)・港北区日吉在住
  アテネフランセ&NHKラジオのフランス語講師

    車内広告で見る日仏結婚観
         

  沿線住民参加のコミュニティー誌『とうよこ沿線』。好評連載の“復刻版”


   掲載記事:昭和60年2月1日発行本誌No.25 号名「榊」
 


 
世界的に有名な日本の満員電車は、たいていの外国人から恐れられていますが、私はそれほど苦にしていません。車内広告を読んでいると、日本語の勉強に役立ち、すぐに時間がたってしまうし、時々面白い発見をすることもあります。



        フランスは“同棲時代”


  先日も車内で日本語の学習を実践していると、自由が丘にある某文化センターの「花嫁短期講座(着付け・家計簿・話し方・書き方‥‥‥)生徒募集」の広告が目に留まりました。それから意識して車内を見回すと、幸せ一杯の花嫁をあしらった結婚式関係の広告が多いのにびっくりしました。

 フランスの電車の中に、もしこんな広告があったら……。おっと、こんな想像をしてみるのは無駄なことでした。だいたいフランスで日本みたいなブライダル産業をやってみても、すぐに倒産です。

 フランスはいま同棲時代で、日本のようにちゃんと式を挙げて結婚する人が少なくなっているのです。ちなみに
1983年と同じくらい婚姻率の低い年を探すとなると、若い男たちがみんな前戦へ駆りだされた戦時中の1941年にまで遡らなければなりません。




        結婚しない「理由」


 
でも同棲とは言っても、実状は結婚しているのと全く同じで、ただ戸籍上で独身になっているだけのことです。それではなぜ、こうしたカップルは、市役所にも教会にも行く必要を感じていないのでしょう?

 私の友人は、「同棲でいるほうが税金が安いんだ」と笑いながら言っていました。奇妙に思えるかもしれませんが、実際フランスの法律は、正式に結婚していなくて、特に子供のいるカップルに有利に出来ているのです。もっとも、これは、副次的な理由にすぎないようです。

 もっと重要な理由を考えてみましょう。近年、平均寿命が延び、夫婦で暮らす期間が大変長くなってきただけに、結婚生活を成功させるのがいっそう難しくなってきています。
 フランス人にとって、結婚とは重大な契約行為なので、いっそう慎重にならざるを得ません。たとえ結婚するにしても、かなり長い間同棲してみて、互いに相手が自分にぴったりの人だという確信を得てからのことです。

 さらに、最近の若者は現実的で、形よりも本質を重要視しています。だから、婚約指輪や結婚式などが廃れてきているのです。アラン・ドロンのようなフランス人から求婚されて……なんてロマンチックな夢をみている娘さん、気をつけてください。
 ハネムーンにも連れていってもらえないかもしれませんよ。ハネムーンなんて、私のおじいちゃんの時代の習慣で、今では博物館行きの代物です。




 世間体か、ロマンチストか


 
それと比べて日本では、テレビ、雑誌、日常会話――どこを向いても結婚、結婚、結婚で、形″つまり、セレモニーの方も重要視されていますね。日本人は世間体を気にするからそうなってしまうのだ、とよく言われます。

 もっともな説明だと思います。でも、私がいつもびっくりするのは、世間体を気にしなくてもいいはずの芸能人まで、ちゃんと結婚し、たとえ一年後に離婚することになろうが、豪華絢爛たる披露宴を行うことです。フランスでは、ちゃんと結婚しているスターなんて、五本の指で足りるくらいの数しかいないんですよ。

 実のところ、一般的に日本の若者がこれほどまでに結婚やそのセレモニーに執着しているのは、彼等がロマンチストだからではないかしら。純白のドレスの花嫁、感動的な両親への花束贈呈、情熱的に輝く太陽のもとでのハネムーン――現実的なフランス人だったら、このためにサイフが空っぽになると思っただけで、夢心地からさめてしまいます。

 



   日本女性の無邪気な結婚観


 
フランス語を教えている関係から、私は日本の若い女性と常に接していますが、彼女たちを見ていると、売れ残ることに恐怖を感じているようです。また、それと同時に、美容器具の使用前・使用後みたいに、結婚によってすべてが変わり、結婚後の生活は、希望と幸福に満ち溢れていると信じ込んでいるようにも感じられます。彼女たちが、「もう働きたくないから結婚したい」なんて言うのを聞くと、その無邪気さにびっくりさせられてしまいます。現実の結婚生活ってそんなに甘くないと思うのですが……。

 花嫁短期講座――最初の驚きがすぎると、私はこの広告がなんだかいじらしく思えてきました。結婚前の女性が一生懸命こうした講座で学ぶのもわかるような気がします。
 私は、料理や家計簿のつけ方をはじめ、結婚したら必ずやらなければならないことすべてを、現場で身につけました。それは常にたやすかった訳ではありません。こうした講座で習っておけば、もっといいお嫁さんになれたかもしれませんネ!

 社会の変化を眺めていると、思いもよらないことが起こるので、面白いですね。
 数年後、日本の若者は、フランスの若者のように現実主義者になってしまっているでしょうか。それとも、フランス人の方がまたロマンチストに戻ってしまっているでしょうか‥‥‥?

                イラスト:石橋富士子(イラストレーター・横浜)

「とうよこ沿線」TOPに戻る 次ページへ
「目次」に戻る